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満月の夜 2

Auteur: 風野うた
last update Date de publication: 2026-03-04 17:58:57

「お客さま、ここは占いの館です。宿屋ではございませんので……」

 レダは、勇気を出して言い返す。しかし、男はガラス玉のように透き通った瞳で、レダを射抜くように見つめる。

「では、占い師殿。俺の未来を占ってくれ。そうすれば、理由を言わなくても、あなたなら分かるだろう」

 男は珍しく、“話を聞いてください”と言わない客だった。こうなると、レダはこの男のことを自力で調べないといけない。

(もしかして、私、試されてる?)

 レダは机の下から水晶の球を渋々取り出した。そして、水晶に映る目の前の男へ視線を固定する。

「すみませんがお客様のお名前を教えて下さい。フルネームではなく、ファーストネームで構いません」

「―――アルフレッド」

(ああ、やっぱり……、そうなのね。他人の空似でもなく、間違いなくこの方は……)

「では、アルフレッドさまの未来を占います」

(はぁ……、仕方がないわ。ここで私情を挟んではダメ!! 相手は私の正体を知らないのだもの。だから、ちゃんとレダとそのお客様として対応しないと。だけど私、占いなんて全然出来ないのよね。こうなったら、それらしく未来を占っているフリをして、彼の記憶を見せてもらうことにしましょう)

 レダは全神経を集中させ、水晶玉で占いをしているフリを始めた。そして、こっそりと自身の魔力を開放して、水晶の向こう側にいるアルフレッドの記憶を探っていく。

(―――これは何処かしら。う~ん、皇宮では無さそうね)

 アルフレッドの記憶の中に、ある一室の風景が浮かんでくる。

 数人の貴族らしき男性たちが『次の満月の夜にアルフレッドへ媚薬を飲ませて用意した女を部屋に送ろう』という作戦を話し合っていた。

「アルフレッドさま、とある犯行計画が見えました。ただ、これはわたしが覗き見て、良い内容なのでしょうか?」

「ああ、構わない。おれはこの計画を上手く潰したいと思っている」

「分かりました。では、具体的にどうして欲しいのかをお聞かせ下さい」

「次の満月の晩、俺は敢えて媚薬の入った食事を取り、こいつらに騙されたフリをする。だから、その晩はここへ泊まらせてくれ。そうすれば、あいつらの計画は実行したにも関わらず、失敗に終わる」

 レダは、少し思案した。

「では、ご自身の寝室には戻らず、ここで満月の日の夜を過ごしたいということでしょうか」

「そうだ。レダ殿ならば、俺が媚薬を盛られて暴走しても止められるだろう?」

 アルフレッドはレダをかなり信用しているらしい。それに、レダが占いだけではなく、魔法も使えるということを知っているようだ。

(いや、実は私、かなり年若い女性なのですけどね。まぁ、今はこの姿と声だから、あなたは気がつかないでしょうけど……)

「では、一つだけお願いがあります。アルフレッドさまが暴れられたら、私の腕力ではとても止められません。その時は魔法で拘束します。許可を下さいますか?」

「―――魔法で拘束か……。いいだろう。許可する」

「では、お受けいたします。あと、もう一つだけお約束を。このことは、どなたにもお話しにならないでください」

「勿論、誰にも言うつもりはない」

「承知いたしました」

♢♢♢♢♢♢♢

 ニルス帝国は、西の大陸の南部にある。

 海岸線が長く、漁業、リゾート、海運業などが盛んな国だ。そして、この国の海軍の戦闘力は世界一と名高い。それ故、海賊は決してニルス帝国の水域に近寄らないというのは有名な話だ。

 また、建国神話以来、二千年とも言われる長い歴史を刻んで来た直系皇族は、魔族の血を受け継いでいるらしい。そのため、皇家一族の魔力は、一般の魔法使いを遥かに凌ぐとも言われている。

 何故、“らしい”なのか。それは皇家の機密事項関連の管理が鉄壁過ぎて、情報が全く漏れ出て来ないからだ。

 例えば皇族を直接お世話する使用人及び身辺警護をする騎士たちは代々その職を世襲している家門の者しか就くことは出来ない。勿論、専門職の者はその限りでは無いが……。高位貴族だろうと皇宮へ自由に立ち入れないのである。

 しかし、この異常なくらいの金城鉄壁は、何か大切なことを隠していますと認めているようなもの。

(そんな皇家の第一皇子アルフレッド殿下が、どうしてここに気安くお願い事をしに来たりするのよ。大体、殿下は有り余る魔力を持っているのでしょう? 自分で解決すればいいのに……)

 身代わりのレダ個人として一番関わりたくない人物がここへ来てしまい、彼女は頭を抱えてしまうのだった。

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